G.脱臼
1.定義
関節を構成している関節端が解剖学的状態から完全又は不完全に転位して関節面の生理的相対関係が失われている状態
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2.発生頻度
・部位によって異なるが年齢、性別によっても差異がある
・青壮年男子、特にスポーツ選手、肉体労働者に多発
・顎関節脱臼を覗いて男性は女性の4~5倍
・小児と高齢者に少ない(脱臼が起こらず骨折が起きる)
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3.脱臼の分類
関節の性状による分類
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脱臼の程度による分類
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関節面相互の位置による分類
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脱臼数による分類
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脱臼部と創部との交通の有無による分類
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外力の働いた部位による分類
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脱臼の時期による分類
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脱臼の経過による分類
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脱臼の頻度と機序による分類
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a.関節の性状による分類
外傷性脱臼
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・正常な関節に外力が働いて生理的範囲以上の運動が強制され、関節端の一方が関節包を損傷してその損傷部から関節包外に出たもの
・急性が殆ど
・使いすぎなど亜急性にはっせいするものもある
⇛ 外力が繰り返し作用し、関節を固定する筋、靭帯、関節包が弛緩伸長して脱臼するもので野球の投手に見られる
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病的脱臼
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・関節に基礎的疾患があって外力なしあるいは正常な関節なら脱臼が起こり得ないような僅かな外力によって発生するもの
・関節包の断裂はない
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b.脱臼の程度による分類
完全脱臼
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一方の関節面が他方の関節面に対し完全に脱臼し両者間に全く対立がないもの
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不完全脱臼
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関節面が部分的な接触を残して不完全に転位したもの
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c.関節相互の位置による分類
・近位関節面に対する遠位関節面の位置によって分類
※肩鎖関節は鎖骨外端の位置で状態を表現
※脊柱の上位にある脊柱の位置で状態を表現
前方脱臼
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近位関節面に対して遠位関節面が前方へ転位したもの
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後方脱臼
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近位関節面に対して遠位関節面が後方へ転位したもの
※手掌では踵足脱臼と背側脱臼、側部では背側脱臼と底側脱臼と表現
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上方脱臼
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近位関節面に対して遠位関節面が上方へ転位したもの
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下方脱臼
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近位関節面に対して遠位関節面が下方へ転位したもの
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内側脱臼
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近位関節面に対して遠位関節面が正中面方向へ転位したもの
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外側脱臼
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近位関節面に対して遠位関節面が正中面より遠ざかる方向へ転位したもの
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中心性脱臼
(内方脱臼)
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大腿骨頭が寛骨臼窩を破壊して骨盤腔に陥入する脱臼骨折
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d.脱臼数による分類
単数脱臼(単発脱臼)
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1ヶ所の関節で脱臼
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複数脱臼(二重脱臼)
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1本の骨の中枢と末梢の2ヶ所の関節で脱臼したもの
(鎖骨の肩鎖関節脱臼と胸鎖関節の同時脱臼など)
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多発脱臼
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複数の骨で2ヶ所以上の関節が同時に脱臼
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e.脱臼部と創部との交通の有無による分類
閉鎖性脱臼(単純脱臼)
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脱臼部の被覆軟部組織損傷を伴わないもの(皮下脱臼)
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開放性脱臼(複雑脱臼)
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被覆軟部組織の損傷によって関節腔が創部と交通しているもの
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f.外力の働いた部位による分類
直達性脱臼
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・外力が直接間接に働きその部位で脱臼したもの
・比較的少ないが、膝関節、足関節、リスフラン関節、手関節などに発生
・外力の加わった反対側の関節包が破れて外力の持続するままに骨頭がそこから逸脱する
⇛ 関節突起などの骨折を伴いやすい
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介達性脱臼
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・外力が他の部位に誘導されて離れた関節で脱臼するもの
・ほとんどの外傷性脱臼は介達外力によって発生
・正常範囲を超える運動が強制されたり、突然に異常運動が強制された場合に関節窩縁、骨突起、関節包および靭帯が視点となって骨頭が槓桿作用(テコの原理)によって一定の方向に脱臼する
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g.脱臼の時期による分類
先天性脱臼
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・関節形成時期の発育欠陥などで先天性に発生
・股関節に多く発育性股関節脱臼(先天性股関節脱臼)と称される
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後天性脱臼
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出産後、外傷や疾病などの原因によって発生するもの
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h.脱臼の経過による分類
新鮮脱臼
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脱臼を起こしてから数日以内のもの
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陳旧性脱臼
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数週間経過したものでほとんどが徒手整復不能である
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i.脱臼の頻度と機序による分類
反復性脱臼
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・外傷性に続発するもので多くは初回治療の中止など固定期間の不足、脱臼を阻止する骨突起の骨折、筋・腱付着部の裂離骨折などのため、軽微な外力や筋力などによって繰り返すもの
・肩関節、顎関節などに多発
・外傷あり
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習慣性脱臼
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・明らかな外傷の既往がなく、骨、軟骨の発育障害、関節の弛緩などの素因のある患者が、軽微な外力などによって続発するもの
・外傷なし
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随意性脱臼
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・本人の意志による筋力によって脱臼を起こし又原位置に復すことができるもの
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4.脱臼の症状
a.一般外傷症状
疼痛
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・自発痛で圧迫感のある持続性疼痛
・骨折時の痛みほど激しくない
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腫脹及び関節血腫
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・腫脹は骨折の様に早急に現れず著明ではない
・脱臼時に空虚になった関節腔内で関節血腫が生じ皮下出血斑を伴う
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機能障害
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・患肢は一定の位置に固定(弾発性固定)
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b.脱臼の固有症状
弾発性固定
(弾発性抵抗)
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他動的に運動を試みると弾力性の抵抗を覚えある程度は可動できるが、
力を緩めると再び戻ってしまう
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関節部の変形
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関節軸の変化
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骨頭の方向に転位
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脱臼関節自体の変形
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それぞれの関節に応じた特有の変形が出現
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脱臼肢の長さの変化
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脱臼した骨頭の位置により脱臼肢が延長、短縮して見える
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関節腔の空虚及び
骨頭の位置異常
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骨頭が逸脱したために関節腔は空虚となり陥凹を触知
そのため他部位に脱臼した骨頭を触れる
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5.脱臼の合併症
骨折
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・骨折を伴う脱臼を脱臼骨折という
・整復が困難であり治療日数も長くなる
・脱臼から先に整復
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血管及び神経の損傷
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・脊椎脱臼では重篤な脊髄損傷を起こす
・その他の脱臼では神経、血管を圧迫し患肢の神経マヒ、血行阻害を起こす
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軟部組織の損傷
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開放性脱臼
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細菌感染により化膿する危険性を伴う
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関節包の損傷
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顎関節脱臼、股関節中心性脱臼などを除き必発
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靭帯及び腱損傷
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軟部組織の損傷中最も多い
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その他
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筋、筋膜、関節軟骨、関節唇などの損傷が起こりうる
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6.脱臼の整復障害
a.関節包による整復路の閉鎖(ボタン穴機構)
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・脱臼した関節端が関節包の裂孔で絞扼されて徒手整復できない場合がある
⇛関節包を破って骨頭が嵌る
・逸脱した骨頭と頸部の差が大きい股関節脱臼に多い
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b.掌側板又は種子骨の嵌入
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・第1中手指節関節の脱臼にしばしば見られ関節に嵌入して整復不能な状態となる
・他の関節では稀である
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c.筋腱、骨片による整復路の閉鎖
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・第2指中手指節関節(MP関節)背側脱臼時、筋や腱などがつくる井桁状の構造内へ中手骨頭が嵌る場合
・肘関節脱臼に合併した上腕骨内側上顆骨折の骨片が関節内に嵌る場合がある
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d.整復に際して支点となるべき小粒の骨片による欠損
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・肩関節脱臼時の上腕骨近位端骨折など
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e.筋並びに補強靭帯及び関節包の緊張
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・各関節の脱臼において、強い筋緊張が整復障害の要因になりうる
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f.陳旧性脱臼
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・モンテギア骨折時の橈骨頭脱臼の見逃しなどがある
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